THE PYTHONS NIGHTへようこそ(木寺勝久連載その1)
THE PYTHONS NIGHTへようこそ
2018年3月17日、『THE PYTHONS Night Vol.4 -Blues Live & Session-』会場にて配布された紙面より。
はじめに
スティーヴ・ミラーという人が、それまでサイドギターを弾いていたバディ・ガイのバンドから独立するときに受けたアドバイスでこういうのがあります。
「スティーヴ、いいこと教えてやろう。どうせメンバーはしじゅう変わる。だからバンド名はスティーヴ・ミラー・バンドってのにしとけ。まちがってもフォグホーンとかいうわけの判らない名前にだけはするなよ」
一方、僕達はというと、THE PYTHONSという〝わけの判らない名前〟を名乗って活動しています。
僕はバンドという形態が大好きで、自分でやるのはもちろん、他人の演奏を観るのも好きです。多分、時代錯誤だろうと思うし、ブルースというジャンルに固定のメンバーなんか必要ない、という考えも分かるけど、僕はバンドらしいバンドが観たいなあ、といつも思ってます。昔、当時の諸先輩がたのバンドを観て「あ、オレもこれやろう」と思ったので、それが刷り込みになっているみたいです。
「想像しなくていいよ、それ当たってないと思う。それほどひどい。」
これはブルースマンならぬ、矢沢永吉氏が自身の最初のバンドの演奏について語った言葉ですが、まさに僕がバンドを始めたころの演奏を形容するのに相応しい表現です。
今は少しでもマシになっているとすれば、「上手い人を探す」なんてことができなかった変わりに、「一緒に上手くなる」にはどうしたらいいか、を模索した過程そのものがバンドサウンドの個性になってくれたようです。結果的にそれは、一人で「楽器が上手くなる」こととは違う意味があったように思います。
ずっと同じ気持ちや時間を共有したバンドであれば、そのバンドにしかない音が鳴るだろうし、それが面白いんじゃないかなあ、というのが僕がバンドにこだわる理由です。
そして、そういう音を出していきたいと思います。
もし、まだバンドを結成しておられない方が、このイベント、THE PYTHONS NIGHTを通して、「自分もバンドをやってみよう」と思って下さったら、これ以上に嬉しいことはありません。
セッションタイムについて
このイベントでは皆さんとのセッションタイムを設けています。
そこで、僕なりのセッション観、みたいなやつを。
あくまで理想なんですが、セッションの場が苗代というか、なにかが生まれて、後につながっていく場になってくれたらと思ってます。それが個々の上達であれ、バンドの結成につながってくれたらなお嬉しいけど、ただ友達が増えるってことでもいい。
せっかく集まったのに、なにも通い合わないままっていうのは寂しいんで、何かを共有したいなあ、と思うんです。
その〝何か〟ってなんだ、ということですが―。
僕はひとつの答えとして、リズムかな、と思います。
なにせコードチェンジも少ない、サビや構成といったものもあんまりない訳で、みんなで工夫のしがいがあるといったら、そこかな、と思うわけです。
シャッフルは、単純な3連符の中抜きではなくって、色んな操作によってグルーヴの違いが出てくる、面白いリズムだってところを皆さんと共有できたらと思ってます。
ブルースというのは「場」の音楽で、スタイルというのは出自によって違うと感じてるのですが、セッションではごった煮の状態で演奏されるのが普通です。
それもあって、お互いが手探りしているうちにセットが終わる、というのも「セッションあるある」です。こいつがなるべく無くなったらって思うわけです。
シカゴ・ブルースと呼ばれるスタイルがあって、これがいちばん色んなスタイルの混淆が見られるようです。南部の弾き語りスタイルが発展したもの、40年代のブギウギからきているもの、B.B.キング以降のギター、ゴスペルやソウルからきたレパートリー、その他もろもろ――。
そうしたものをコンボスタイルで演奏して、一定の雰囲気を醸し出す成果をあげているように思います。この辺りの音が広まったら、「ハズレ」と感じることも少なくなるんじゃないかなあ、と思ってます。
シカゴ・ブルースのリズムギターのバリエーションっていうのは、豊富で面白い。その場のリズム全体を引っ張っていくことができる。ギターソロが回ってくるまで、なんとなくコードを鳴らしているより、ずっと豊かな時間を過ごせると思いますんで、ぜひ御一聴くださいませ。ハーモニカやピアノの人との演奏も楽しめるようになりますよ。
……とまあ、色々書きましたが、「そんなもんか」と心の片隅に留めて頂けたら結構です。 リズムに合わせて揺れながら、ビールでも呑んで、たまに野次をとばす、そういう時間がみなさんと過ごせたらと願っています。
音源紹介
たまに、「どんな人を聴いてますか?」と訊かれた時に、いつもとっさに答えられないので、ここで少しばかり、音源の紹介を……。
「マックスウェルストリートの伝説~ライブ1964」(PCD5527/28)
原題は、『And This Is Maxwell Street』といいます。
僕達がよく「こんな風にやりたいなー」と言ってる録音がこれ。
その演奏は全体に、粗っぽく、ダーティーな音色に聞こえることと思いますが、ちょくちょく聴き直してみて下さい。そのうちふと、チューニングがあったみたいに、ぐいぐい迫ってくること請けあいです。
一番、中心に取り上げられてるのはロバート・ナイトホークというひと。スライドギターの名手で有名です。奏法の影響ということでいえば、恐らくエレキに持ち替えた後のマディ・ウォーターズが最も指針にした存在でしょう。エディ・テイラーも「最高のスライドギタリスト」として名前を挙げてます。直接に手ほどきを受けたアール・フッカーがギターを弾いているのが、マディの曲としてかのレッド・ツェッペリンに取り上げられた「ユー・シュック・ミー」です。めったにスライドを弾かないマット・マーフィーが披露したのも、ナイトホーク流儀のものでした。
ナイトホークの名前を格別に意識しなくても、オーソドックスなスタイルとして認知されている、音楽的遺産になっていると思います。そういう人です。
で、スライドも勿論なんですが、僕が大好きなのは彼のウォーキング・ベースです。なんともグルーヴィー。このノリがどうやって出てるものかとよく考えています。
この音源はドキュメンタリー映画のサウンドトラック部分だけを商品化したもので、肝心の映像の多くは失われているようですが、幸いにもナイトホークの演奏部分は短いながらも残っています。マックスウェルストリートでの路上ライブ、クネクネと踊る観客たち――まあ、編集はされてるんでしょうが、ブルースの生の姿を見た気分になれます。動画が某有名サイトにあがってることでしょうから見てみて下さい!
この「仲間うちの宴会」と「ショウアップされたステージ」の中間くらいに位置する演奏という感じの演奏、生々しい演奏というのが僕達の理想のひとつです。
他にも僕達がよく取り上げてるスリム・ハーポなんかのエクセロ勢だったり、個人的に好きなドリフティング・スリムだったり、フォレスト・シティ・ジョーについても書きたいけど、長くなるのでまたの機会に――。
――最後に、本日はご来場、本当にありがとうございます。これからも、THE PYTHONSは「体に響くグルーヴ」を目指していきます。
また、お会いしましょう!
木寺勝久(Vo. Gt. Harmonica./THE PYTHONS)