雨の日に聴くSlim Harpo 『Sings Raining In My Heart』(吉井浩平の散文その5)
季節や天気と音楽は、切っても切れない関係にある。
夏の晴れた空に聴くベン・フォールズ・ファイブはアメリカの片田舎に育った非モテ少年たちが夏休みに組んだバンドのガレージでの一幕に僕達をトリップさせるし、ロンドンのどんより雲とキンクスは同義語である。
そして、四月から九月にかけて、雨の降る日と言えば、これである。スリム・ハーポのファースト・アルバム『レイニング・イン・マイ・ハート』。これで決まりなのである。
名盤は何時の世もジャケと共にある。
別ジャケ。
サイケデリック・ジャケ。
Slim Harpo 『Sings Raining In My Heart』
A1 Rainin' In My Heart
A2 Blues Hangover
A3 Bobby Sox Baby
A4 I Got Love If You Want It
A5 Snoopin' Around
A6 Buzz Me Baby
B1 I'm A King Bee
B2 What A Dream
B3 Don't Start Cryin' Now
B4 Moody Blues
B5 My Home Is A Prison
B6 Dream Girl
1957年にシングル「Got Love If You Want
It」でデビューしたハーポのファースト・アルバム。他にも「I'm A King Bee」等マスト・ナンバー満載であるが、今回取り上げるのは表題曲にもなっているこの世紀の名曲「Rainin' In My Heart」
“心に雨が降っている
おれが間違っていたよ
だから帰ってきておくれよベイベー”
たわいもない嘆きがメロディーと伴奏の力によって名曲に変わるのである。
気の抜けたような声とハーモニカ、ギターの素朴なウォーキング・ベース。そして特筆すべきはもう一本のギターによるコード・バッキングとドラム・ハイハット。これらが屋根を打ち鳴らす雨音の様な効果を見事に表現している(他の曲でも同じような叩きかたをしているので多分狙ってない)。難しいことは何一つしてない。だけど、景色が見える演奏。粋だ。
この曲の素晴らしさは、雨降りの日の憂鬱さや悲しい感情をポップに変えてくれるところだ。決して重くさせないのだ。心の中の鉛のようなものを溶かしてくれる軽やかさがある。アップリフティングさせてくれる、これが大切なのだ。
アルバム自体は別にコンセプチュアルな作品ではなく、デビュー時からの作品を集めたものであるが、この曲の存在の大きさがアルバムとして統一性をもたらしているように思う。全体を通して、雨の日に最適なトラックとして機能しているのだ。
同曲は 1961年にビルボードのR&Bチャートで17位、ポップチャートで34位となかなかのヒット曲となったようである。
抜け目のないハーポさんはこれに便乗してこんなのも作っている。
「Still Rainin' In My Heart」である。同じメロディー、同じコード進行。単純だ。
“まだ俺の心は雨が降っているよ”
まだ彼女は帰ってこないのである。
もう帰ってこないんじゃね?
スリム・ハーポさんと言えばルイジアナ・ブルース界を代表するブルースマンとして有名で、ローリング・ストーンズやキンクス等のカバーでも有名な楽曲を数多くドロップした超偉人だ。サンプリングネタとして機能しそうなトラックやポップ・ソングとして成り立つキャッチーな曲が満載。
下の写真に写るお尻をフリフリしたオッサンがスリム・ハーポ氏。
「どうだい?決まってるだろ?」
僕達THE PYTHONSも大変お世話になっております。ありがとう、ハーポ兄さん!